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トラウマにせずに昇華すること
一般的に“トラウマ”と呼ばれるものは、
幼少期の虐待であったり、
DVや暴力などの明らかな傷つき体験だと
思われている節があります。
しかし、
実際のところ“トラウマ”の種は
私たちの生活のそこかしこに埋まっています。
だからこそ、
私たちは“トラウマ”だらけだし、
傷だらけで当たり前ともいえます。
今回の記事では、
“トラウマ”を“トラウマ”にしないこと
も大切なのかもしれません、
ということを実際のセッションの流れを
交えながらお話できればと思います。
決して、
“トラウマ”が悪いものだとか、
消し去るべきものだということを
お伝えしたいわけではないのです、
と書き添えておきますね^^
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特に、
“恋愛にトラウマがある”
という言葉はよく耳にすることが
ありますよね。
恋愛をはじめとした、
パートナーシップには、
「愛着」
というものが複雑に絡んでいるので、
その経験から得るものも、
“トラウマ”となりやすい傾向があります。
(※「愛着」とは…
心理学の言葉で、
人や動物が特定の対象に対して形成する
特別で情緒的な結びつきのこと。
幼い頃であれば主に母親との関係において、
大人になるにつれて主にパートナーとの関係において発生してくる結びつきです。)
好きな人に気持ちを伝えたら、
思いっきりフラれてしまった。
付き合っていた人に浮気を
されてしまった。
結婚を約束していた人に
婚約破棄をされてしまった。
信じていた恋人に
騙されたり裏切られたりした。
恋愛によって生まれる
“トラウマ”にも、
さまざまなものがあります。
次に誰かと結びつこうとしたとき、
これらの傷がぶり返して、
上手くいかなくなってしまう…
ということもなんとなく想像できますよね。
でも、
これらの例にあるような傷つきは、
ある意味“時間”の経過とともに
癒されていく側面があります。
それは、
その結末がどうであれ、
事実がはっきりとわかっているからです。
はっきりと、
“黒”だと認識して、
少しずつでもその事実を
受け容れることができます。
しかし、
前回の記事でお話していたような、
“音信不通”という結末には、
事実すら突きつけられない、
という非常に酷な一面があります。
私が今回、
この“音信不通”について
わざわざ記事にしてみようと思ったのには、
いくつか理由があります。
少し前にアプリで出会った、
などの関係性の浅い場合はもちろん、
深いつながりがあった関係にも
“音信不通”は起こりうるものであること。
その結末は必ずしもお互いの気持ちが
なくなったから迎えられるものではないのだ
ということ。
だからこそ、
音信不通にしてしまった側も、
音信不通にされてしまった側も、
トラウマになってしまう前の対処が大事だ
と感じたということ。
社会情勢の変化とともに、
“音信不通”が増えていくと
考えられるということ。
音信不通にされた側、
というのはこの傷つきを
誰にも打ち明けられず
苦しんでいることが多いということ。
しかしながら、
その苦しみを打ち明け、
その結末を“トラウマ”にすることなく
昇華していくことができれば、
思いがけない結果をもたらしてくれる、
という事実もあるということ。
これらのことが主な理由です。
また、
この記事の文脈で表現する
“音信不通”とは、
お互いに信頼のある関係性において起こる、
まったく連絡がとれない状態を指します。
“わからない”という不明瞭さ
私個人の恋愛観としては、
それほど恋愛に執着がない、
ということがいえると思います。
相手との関係性において、
恋愛というものを優先しようとすると、
お互いらしく生きるということが
できなくなってしまう…
と感じることもあります。
そういうときは、
恋愛という関係性を手放すことも
視野にいれて考えてみよう、
というひとつの基準をもっています。
そうした、
一見ドライにすら思える恋愛観のせいか、
職業柄かは分かりませんが、
“音信不通”のような状況に見舞われた方が
その悩みを打ち明けてくれることがあります。
これには思いあたる理由があります。
恋愛の重要性が高い傾向にある
《女性性》が強めのコミュニティに
“音信不通”というトピックを投げこむと、
相手に対するバッシングの嵐になってしまうんですね。
なんの前触れもなく、
突然連絡がとれなくなる。
もはや元気なのか、
病気でもしているのかすら
わからなくなる。
でも、
相手の性格や人柄を思うと
単なる気まぐれや感情的なもの
とも思えない。
そんな理性の裏では、
【無価値感】が反射的に反応して
“自分には愛される価値がない”
という深い絶望感との葛藤も生まれています。
そうした感情は、
知らず知らずに身体にも
影響を与えているもので、
自律神経の乱れの原因になっていたりもします。
相手を責めるべきことなのか、
相手になにかあって
こうした状況になっているのか、
自分がなにかしたから
こんな仕打ちを受けているのか。
自分でもわからないことだらけなのです。
そんな状況のなかで、
音信不通にした相手へのバッシングや
断罪が飛び交う状況にいることは、
彼女たちが自分のために言ってくれていると
理解していたとしても、
同時に自分もみじめになっていってしまうもので息苦しさは増していきます。
そんな悩みを抱えたある女性が
苦しみの胸中を打ち明けてくれたことがありました。
彼女とはもともと知り合いで、
たまに会って他愛のない話をする仲でした。
彼女がお付き合いしている彼も一緒に、
3人でご飯を食べに行ったこともありました。
彼もとても誠実な人で、
良い人ぶっているとかではなく、
本当に嘘がつけない正直な人といった印象でした。
そして傍から見ていても、
お互いとても大切に想い合っているんだなぁ
というのがわかる素敵な二人でした^^
そんな彼と連絡がとれなくなったと、
彼女が話してくれたのは、
音信不通になって3ヵ月が経った頃でした。
SNSもブロックされてしまい、
なにもできることがないといった状況にありました。
音信不通になってしまう少し前に、
仕事があまり上手くいっていない、
ということを話してくれていたようです。
彼女もずいぶん疲れた様子でしたが、
なんとか前向きになろうとしていました。
まずはゆっくりと、
彼女の苦しみや痛みに寄り添ってみます。
そして、
前回の記事でお伝えしていたような、
根底にある【無価値感】のことを話しました。
「そう、
よく考えるとおかしいんよ。
不義理なことをしてるのはあっちなのに、
私がみじめな気持ちになるってさぁ。
無価値感かぁって考えると、
なるほどな~って思えるところあるわ。」
彼女が今抱えている苦しみはやはり、
“自分は愛される価値がない”という
幻覚によってもたらされたものでした。
「“音信不通”という彼の行動」と
「自分の価値」が
思い込みのままに結びついていました。
その思い込みの方程式は、
自分には愛される価値がないから
音信不通にされた、
という答えを勝手に導き出していました。
その結びつきを少しずつ、
ほぐしていきます。
それまで無意識のままに
思い込んでいたところに、
少し意識を向けてみるだけで、
ずいぶん楽になっていきます。
自分と向き合うときに、
【パーツ心理学】の考え方が
とても助けになってくれることも
伝えると彼女はどんどん前向きに
なっていきました。
彼女はとてもたくましい人で、
このような状況で自分と向き合ってみようと
思える人はなかなかいないものですが、
「なんせ答えをだすまでは時間あるし」
とのことでした(笑)
私も彼の人となりは知っていたので、
結論を出すのはもう少し待ってみることに
賛成でした。
彼の性質を考慮すると、
なんとなく彼が【罪悪感】に苛まれやすいタイプであることも納得できるものがありました。
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【不安】という誰にでも起こる感情は、
“わからない”という不明瞭さによって
もたらされます。
“音信不通”の状況というものは、
この不明瞭さが断続的に続いていきます。
いつ終わるのかもわからない。
果たして終わるのかもわからない。
何が原因なのかもわからない。
自分に原因があるのかもわからない。
彼女はこの苦しみを、
真綿で首を絞められる感じ…
と表現していました。
“わからない”って
苦しいですよね。
自分のなかの
【無価値感】や【期待や執着】に
気づかないままだと、
それらが事実を捻じ曲げてしまうので、
“音信不通”になった相手が、
自分を攻撃しているように感じてしまいます。
多くの場合は、
「あいつに攻撃してやろう!」
なんて意図はなく、
むしろ彼自身が
自分の弱さに向き合いきれなかった結果起こっています。
《男性性》のエッセンスには、
【プライド】や【自尊心】も含まれます。
そこに向き合いきれず、
自分の【プライド】や【自尊心】を
守ることを彼が選んだだけの話で、
そこに彼女の価値は関係ありません。
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そこから2ヵ月。
ある決意をもって彼女から連絡がありました。
“自分と向き合う”
ということを続けてみて、
ずいぶん楽になってきた。
今なら
この関係を卒業するという
決意ができる気がするから
手伝って欲しい、とのことでした。
“自分と向き合う”
ということを続けてみて、
ずいぶん楽になった、というのは、
彼女が本当に自分と向き合ってきた
ということの何よりもの証拠です。
これは間違いなくそのタイミングだと
私も感じました。
“音信不通”をトラウマ化させない、
という専門外とも思えるテーマでしたが、
このプロセスは想像を超える結果をもたらしてくれました。
“音信不通”の苦しみを身体で感じる
通常のトラウマケアでは、
最初からトラウマにアクセスするような
ことはしません。
しかし今回の場合は
“トラウマ化させないこと”が目的であり、
本人がそれをしっかりと認識していたため、
まずは今回の経験から感じた《感覚》を
味わうことから進めていきました。
◇真綿で首を絞められていくような感覚…
それが日を追うごとに強くなっていく。
◇先行きが見えなくなったとき感じた、
喉が渇くような感覚。
◇みじめな気持ちに触れるときに感じる、
背中の真ん中あたりのずきっとした感覚。
ゆっくり、ゆっくり、
ひとつずつの感覚を
しっかり味わっていきます。
こうした感情たちを、
身体感覚にゆだねて感じていくと、
その【自己調律のちから】によって
昇華させていってくれます。
彼女はもともと
合気道の経験があったので、
こうした身体感覚を微細に感じることにも
抵抗がなく、プロセスは順調に進みました。
(彼女とともに、
真綿で首を絞められるような感覚を感じてみたとき、ふと彼がブロックまでした意味がわかったような気がしました。
“わからない”という不明瞭さは、
彼が音信不通にしてしまった原因ともいえます。
この先どうなるかわからない。
仕事が上手くいくかわからない。
彼女をちゃんと支えられるのかわからない。
彼女の性格を知っていれば、
冷静に話をすれば、
彼女が関係の解消を渋ったり縋ったりすることなく受け入れてくれると分かるはずなんです。
どうしてブロックまでするのかが、
私にはよく分からないところでした。
彼からすれば、
“自分が拒絶したような体をとっているけれども、実はとっくに自分がフラれているのではないか”という不安を潜在的に感じていたのかもしれません。
ブロックをしない限り、
彼女から連絡が来ていない、
という事実がずっと突きつけられるかもしれない。
この“フラれているのかもしれない”
という不明瞭さに耐えかねてしまっての
ブロックだと考えると腑に落ちるものがありました。
社会情勢の変化とともに、
彼がとても弱ってしまっていたことも
確信に近いものを感じました。)
彼女も同じようなことを感じたようで、
彼らしいといえばそうかも、
と話してくれました。
彼女の理解はとても肯定的なものでした。
これが真実かどうかは別としても、
こうして相手に寄せて考えてみる、
ということはとても大切ことで、
ただ“音信不通”を断罪するだけに終わってしまえば、《男性性》の強すぎる男性が、ときに弱ってもいいと自分に許せる土壌は育たないですよね。
そして
《女性性》の強い女性が、
それを理解しすぎて犠牲になってしまわないようにすることも大切なことだと思います。
前回の記事でも書いていたように、
パートナーシップにおいて、
このような状況が起こりやすいのは、
《まずは自分とつながる》ということができるように、そのきっかけをもたらすために起こっています。
そのきっかけを好機として
自分と向き合ってみるかどうか、
というのは人それぞれタイミングが
あるのだと思います^^
パーツさんたちの気持ちをしっかり聴く
一人ひとりのなかには、
いろいろな自己が存在しています。
このときの彼女のなかにも、
もちろんいろいろな彼女が存在していました。
それぞれのパーツさんの話を
ゆっくり聴かせてもらうことは
とても大切なことです。
パーツさんによっては、
他のパーツさんに遠慮して、
隠れてしまうパーツさんもいるのです。
たとえば、
彼との関係を終わりにしようと
決意するまでのあいだ、
彼女のなかの“彼を責めたいパーツさん”
は奥深くに抑圧されていたりします。
“彼を待ちたいパーツさん”や
“彼を信じているパーツさん”が
彼女のなかに大きく存在しているので、
“彼を責めたいパーツさん”が
なにも言えなくなっているのです。
押し込めた感情というのは、
身体に影響を与えていることも多く、
このパーツさんたちの話を
ちゃんと聴いてあげると、
感じていた身体の不調がなくなった、
ということがよくありますが決して不思議なことではありません。
彼女とのセッションのとき、
最初にでてきたのは、
一番抑えつけられていた
“彼を責めたいパーツさん”でした。
○彼を責めたいパーツさん
『とても怒りを感じている。
そんな中途半端なことをするくらいなら、
はじめから付き合って欲しくなかった。
平気でそういうことができる神経が
とてもじゃないけど理解できない。
他の人たちはなんていうか知らないけど、
私はまったく同情なんてできない。
もう二度と顔も見たくない。』
(他の人たち、というのは
恐らく他のパーツさんたちのことです。
無意識に抑圧していた感情だったようで、
とても強い怒りを抱えていました。)
○寂しい気持ちでいっぱいのパーツさん
『こういうことをされて
本当に悲しかった。
今でもこの事実を
受けいれられないところもある。』
○これから誰かと付き合うことが怖いと感じるパーツさん
『男の人がみんなこういうことを
するとは思わないけど、
少なくとも私と関わる人は
音信不通にしてしまう人なのかもしれない、
という怖さがある。
そこまでして
誰かと付き合いたいとは思わない。』
○今でも彼を大切に想うパーツさん
『こんな状況になっても、
彼のことを嫌いにはなれない。
むしろまだ好きな気持ちもある。
今もきっと頑張っているんだろうし、
うまくいくことを願ってる。
無理しすぎないでいるといいな。
こうなってしまったのは残念だけど、
出会えてたくさんのものをくれたことに
とても感謝してる。』
(このパーツさんが彼女の
コアな部分であったように感じました。
相手のことをよく理解し、
その価値観を尊重し、尊敬の気持ちを
今も持ち続けていることを
しっかり話してくれました。
なんだか彼の気持ちが痛いほど
わかった気がしました。
彼が別れを切り出す、ということは、
これほどの理解者を失うことが確実になる、
ということです。
もしも彼が相当に弱ってしまっていたのだとすると、もうそこに向き合いきるパワーがなかったのでは、と考えるには十分な余地がありました。)
○前向きに考えるパーツさん
『今回のことがきっかけで、
“自分と向き合う“
ということが少しずつできるようになった。
彼に対して
「そんなに頑張らなくてもいいのに‥」
と思うことがよくあったけど、
それって自分にも言えることだった。
「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」
って自分にも本気で思ってあげられたら、
なんかちがうものが見えてくる気がする。』
このように、
パーツさんごとに
一人の人格のようにアクセスしてみると、
はっきりと思いを聴かせてくれるのです。
自分のなかでさまざまな葛藤があるのは
当たり前の話で、その葛藤をそのままにして
《自分の本当の気持ち》に辿りつこうとしてもなかなかむずかしいものがありますよね。
“彼女一人”としてまとめてしまうと、
『もちろん責めたい気持ちも悲しい気持ちもある。だけどこの状況になっても嫌いにはなれないし、お互いこの経験を生かしていけたらいいと思う』
というように、それぞれの感情が20%ずつくらいしか解放されず、そのままくすぶってしまいます。
この感情のくすぶりが、
《恋愛へのトラウマ》の原因となっていきます。
恋愛に限らず、
なにかを乗り越えようとするとき
自分のなかの一人ひとりのパーツさんの声を
丁寧に聴いてあげることはとても有効です^^
この“音信不通”の弔いの
プロセスは私の想像をはるかに超える
結末を迎えました。
少し長くなってしまうので、
次回の記事に続きます^^
※この記事にあるプロセスは、
詳しいところも含めて、
彼女の了承を頂いて掲載しています。
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Q.「ソマティック(身体性)とは?」
●【概念編】
⇒思考(左脳)と身体感覚(右脳)のちがい①~⑤・<最終章>
※<最終章>までの連続シリーズです。
●【本質編】
⇒ソマティック(身体性)な探究~本質編~
●このブログでは、
【パーツ心理学】にもとづいて、
身体の細胞や感情に対して
“擬人的”な表現を多く用いています。
自分と向き合ったり、
感情と距離をおくことを優しく
手伝ってくれる神経生物学的な考え方です^^